Tengo hambre, Ay mi madre
〜テンゴアンブレ、アイミマードレ〜第1回「サンテリアの巻」
「生きるということは自分のキャパシティーを広げていく作業である。」と世間ではよく言いますが、まあ日々是レボリューションということでしょうか。戦い続けていればそんな気持ちを楽しめますよね。キューバ。ここは資本主義育ちのアジア人の僕には特にそれを感じさせる国。
ここキューバではもろなアジア人が珍しい存在で、日本人も韓国人もベトナム人もみんなまとめて「チーノ(中国人)」と呼ばれます。「あのカンフー映画で見たあのチーノが目の前を歩いている!」と道では20mおきに「チーノ!」と意味もなく声をかけられます。モテモテ(笑)。美女に生まれたらこんな感じなんでしょうか。
さて、ではまず僕のいるキューバ音楽界について見てみましょう。
場所はハバナ市内のとある一軒家。スペイン風コロニアル様式の高い天井の広間に30人ほど人が集まり、聞きなれない言葉の歌とタイコに合わせて踊っています。強烈なバタドラムのポリリズム、会場全体の*コール&レスポンスと手拍子、雰囲気がどんどん高まっていくその時、突然!「アーッハハハ!」「キエーッ!」「ボボユマ!」ついに踊っていたバイラリン(ダンサー)の表情が変わって口から泡を吹き、奇声を絶叫しだしました。すると周りで踊っていたオバちゃんたちもどんどん痙攣した ように踊りだし、倒れていきます。モンタード!サンテリアのフィエスタは今日も大盛り上がりです。トランス状態に入り、サントのスピリットが降りて来たのです。
サンテリアはアフリカ・ナイジェリア、ヨルバ族ルーツの多神教アフロ宗教です。日本の八百万の神信仰と似ていますが、憑依という形をとって人が直接そのスピリットと交信します。アフリカではヨルバと呼ばれ、あのフェラ・クティやフェミ・クティも信者です。キューバでは奴隷と共に入ってキリスト教とミックスされサンテリアとなりました。ブラジルのカンドンブレ(カエターノ・ヴェローゾも信仰してる)、 ニューオリンズのブードゥー(ドクター・ジョンで有名な)有名なハイチのブードゥー(ディアンジェロでご存知)、全てヨルバの流れを組みその国で独自の発展をとげたアフロ宗教です。
ブルースの神様、ロバート・ジョンソンがまだ無名だったころ、才能と名声を手に入れるため十字路で悪魔に魂を売り、そして才能と名声を手に入れたという有名なエピソードがあります。その悪魔と言われているものの名はレグバ。これは悪魔ではなくブードゥーではレグバ、サンテリアではエレグア、カンドンブレではエシューと呼ばれる、運命の扉の開閉を司るオリシャ(神と人間の間にいる存在)です。十字路に住んでいて良い運命の扉も開ければ悪い運命の扉も開けてしまいます。日本の道祖神のようなものですね。サンテリアには教典のようなものはなく、パタキと呼ばれる神話を重要視した託宣や憑依によって信者は人生の問題を相談したり、お願いごとをしたりします。そして鶏や山羊などの生贄は欠かせません。この生贄を捧げる行為がキリスト教徒から見て悪魔と恐れた理由の一つと思います。もっともキリスト教の儀式においてもワインとパンは血と肉の代用品として重要なものですが。
サンテリア、ブードゥーに関して詳しいページ。
http://www5a.biglobe.ne.jp/ ̄dambala/contents.html http://www.geocities.co.jp/MusicHall/2423/
話を音楽に戻しましょう。サンテリアの音楽はヨルバ語で歌われる歌とバタドラムというタイコとで演奏されます。このバタドラム、砂時計のような形の両面タイコが大中小3つ。座って膝に乗せて3人一組で叩きます。ダンサブルでノリノリのパートはもちろん、キューバには珍しく静かな癒し系的パートもあります。ポリリズムとは簡単に言えば3拍子と4拍子など違う拍子を同時に1つのリズムの中で演奏するものでアフリカのタイコに多く見られるものですが、バタのポリリズムは中でも複雑です。 そして踊る人はこのポリリズムなビートに体をポリリズムに同調させて踊ります。つまり足のステップは3拍子、上半身の腕の動きは4拍子といった具合です。この動きとコール&レスポンスでトランス状態へと上がって行くわけです。 6年前に初めてサンテリアの儀式に連れて行かれた時、細身の背の高い黒人の人がいきなり亀の首をバーンと切り、首なしの亀を逆さに持ってシャンプーみたいに頭に血を振り掛けてました。そしてびん牛乳飲むみたいにその亀を手に持って血を飲んでました。その人は僕の存在に気づくとニッコリ笑って「お前も飲むか?元気になるぞ!」と爽やかに力こぶを作りながら誘ってくれましたが、当時の僕にはまだ無理でした。その後始まったバタドラムのフィエスタ!ポリリズム!ダンス!コール&レスポンス!トランス!憑依!こりゃ刺激的!!!とミーハーな僕はすっかりやられてました。そし てその4年後キューバに戻り、さらにその2年後の今*オモアニャ1年生になってタイコ叩いてます。
つづく
*コール&レスポンス メインボーカルとそれに対するコーラスとの掛け合いのこと。アフリカ系音楽のお約束。同じフレーズのコーラスが繰り返される間をメインボーカルが色んなフレーズを入れて盛り上げていく。ゴスペルやサルサなどにも顕著。
*オモアニャ(Hijo de Tambor) 直訳すると「タイコの息子」。サンテリアの儀式でバタドラムをたたく人のこと。オモはヨルバ語で息子、子供。アニャはバタの中に住んでいると云われるスピリットのこと。バタ自体をアニャとも呼ぶ。





002 / アバクアの巻
003 / ルンバの巻
004 / カルナバル・コンパルサの巻
005 / SALSA!の巻
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IZUPON PROFILE
本名、出原亮介。大阪生まれ東京育ち。1992年、アンチ・テクニック・ハイ・センスに憧れ楽器初心者ギャル3人集めてガレージ・パンク・バンド、The Flamenco a Go Go結成。ベース・ギター、作詞作曲プロデュースを担当。3枚のアルバムと2枚のシングルをリリース。うちセカンド・アルバムは当時のインディーズ・チャート10週連続1位を記録、今だ語り草となる。1994年解散。1995年、アシッド体験に強烈な影響を受ける。「ドラムは異界に飛び立つための乗り物である」という言葉に憧れ、楽器をベースからパーカッションに変更。活動場所をライブハウスからクラブ、レイブ・パーティーに移し96年TRIBAL CIRCUS、99年からAOA、NXS、SOFT、TULULULUS等に参加。
2001年、渡キューバ。トランスするキューバ版ブードゥー教・サンテリアの儀式に衝撃を受け、そこで使われる太鼓・バタを習得のためキューバ五大バタ奏者の一人アンヘル・ボランニョ氏に師事。洗礼を受けてサンテリアの儀式でバタをたたく修行の日々。
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